A20:マウスにおける B 細胞リンパ腫のモデリング

Author: Sheri Barnes, PhD, Director, Scientific Development
: October 2017


研究者らは、リンパ腫をより効率的に治療するため、前臨床マウスモデルを使用し、放射線治療や化学療法といった従来の治療法と、免疫調節薬を組み合わせた方法を採用しようとしています。 We have developed the syngeneic A20 tumor model, a B cell lymphoma, to support these immuno-oncology applications.

リンパ腫はリンパ系細胞由来の悪性腫瘍のひとつです。原因は B 細胞または T 細胞ですが、B 細胞由来のリンパ腫、特に非ホジキンリンパ腫(NHL)の罹患が最も多く見られます。リンパ腫は、小児や青年でも確認されていますが、年齢が上がるとともに症例が大幅に増加しており、 診断時における年齢の中央値は 67 歳です。2017年には、米国で推定72,240の新規NHLケースが報告され、そのうち 20,140人の患者が死亡するとみられています。NHL の 5 年生存率は 71% と比較的高いものの、治療後 5 年以内の再発が最も多く1、患者様の長期的な生存率を高めるためにも新しい治療戦略の開発が必要不可欠となっています。

他の癌における免疫療法の影響を受けて、研究者らは、リンパ腫をより効率的に治療するため、前臨床マウスモデルを使用し、放射線治療や化学療法といった従来の治療法と、免疫調節薬を組み合わせた方法を採用しようとしています。 We have developed the syngeneic A20 tumor model, a B cell lymphoma, to support these immuno-oncology applications.A20 は、老齢の Balb/c マウスに自然発生する細網肉腫に由来します2。A20 の腫瘍細胞は高レベルの PD-L13 を発現することが報告されており、また免疫調節抗体に反応します。したがって、A20 は免疫療法の医薬品開発における魅力的なモデルと言えます。

A20 の倍加時間は ~4〜5 日で、増殖速度は他の同系モデルに比べて穏やかなため、可能性として、より長期間にわたり試験薬を投与して抗腫瘍活性を観察することができます。図 1 は、腫瘍増殖の全体平均(1A)と個別(B〜E)のデータで、対照群と免疫調節抗体で処置した群の比較を示します。移植後 3 日目にチェックポイント阻害剤の抗 PD-1 と抗 PD-L1 を、移植後 10 日目に作用薬の抗 GITR を投与開始したところ、顕著な抗腫瘍反応が見られました。A20 の腫瘍が触診可能になってからこれらの薬剤の投与を開始すれば、さらに候補分子との併用で改善が期待できると見られます。

図 1:免疫療法後の A20 の腫瘍増殖 - 全体平均と個別のデータ

図 1:免疫療法後の A20 の腫瘍増殖 - 全体平均と個別のデータ

また、抗 GITR の A20 腫瘍に対する免疫調節効果を調べるため、処置後 1 週間経過した腫瘍における T 細胞と骨髄性細胞の集団を分析しました。その結果が図 2 です。抗 GITR で処置した後、CD8+/Treg 比は劇的に増加しました(図 2A)。この増加は、宿主免疫系が関与していることを示しており、全身腫瘍組織量の減少にも現れています(図 1)。 一方、骨髄性細胞集団の変化は穏やかで、 一部については治療による変化はなく、抗 GITR で処置したものはアイソタイプコントロールと比べて明らかに M-MDSC の割合(%)が減少し、M1 マクロファージの割合が増加する傾向にありました(図 2B)。

図 2:抗 GITR 処置後の A20 腫瘍の免疫プロファイリング

図 2:抗 GITR 処置後の A20 腫瘍の免疫プロファイリング

免疫療法への期待もさることながら、リンパ腫では放射線による臨床治療がよく用いられており、通常は他の薬剤との併用療法という形で実施されています。 We employ the Small Animal Radiation Research Platform (SARRP) by XStrahl for modeling focal beam radiation (see our related blog and poster), and investigated a single dose range of 5-20 Gy against A20 tumors. 下図 3A と 図 3B 〜 E は、それぞれ照射後の腫瘍増殖の全体平均と個別のデータを示します。A20 の腫瘍はどの線量にも影響を受け、10 Gy と 20 Gy を照射したマウス 2 グループにおいては、移植後約 70 日間にわたって持続的反応が見られました。これらのマウスは、2 度目の A20 細胞注入を行っても無腫瘍のままでしたが、 治療を受けていない同齢マウスでは予想通り腫瘍が増殖しました(データ表示なし)。

図 3:焦点放射線処置後の A20 の腫瘍増殖曲線 - 全体平均と個々のデータ

図 3:焦点放射線処置後の A20 の腫瘍増殖曲線 - 全体平均と個々のデータ

A20 モデルは、B 細胞リンパ腫研究の強力な前臨床手段となります。チェックポイント阻害剤や共刺激性の免疫作動薬、放射線に反応するといった A20 の特性は、Immuno-Oncology の前臨床研究を行ううえで魅力的です。


参照


1Howlader N、Noone AM、Krapcho M、Miller D、Bishop K、Kosary CL、Yu M、Ruhl J、Tatalovich Z、Mariotto A、Lewis DR、Chen HS、Feuer EJ、Cronin KA (eds)。SEER Cancer Statistics Review、1975-2014、米国がん研究所(National Cancer Institute)。 Bethesda, MD, https://seer.cancer.gov/csr/1975_2014/, based on November 2016 SEER data submission, posted to the SEER web site, April 2017.

2Kim KJ, Kanellopoulos Langevin C, Merwin RM, Sachs DH, Asofsky R (1979年) Establishment and characterization of BALB/c lymphoma lines with B cell properties(B 細胞特性を有する BALB/c リンパ腫株の確立と特性評価).  Journal ofImmunology, 122(2): 549–554.

3Sagiv-Barfi I, Kohrt HEK, Czerwinski DK, Ng PP, Chang BY, Levy L (2015年) Therapeutic antitumor immunity by checkpoint blockade is enhanced by ibrutinib, an inhibitor of both BTK and ITK(チェックポイント遮断による治療上の抗腫瘍免疫効果は、BTK と ITK の両方を阻害するイブルチニブによって強化される).  PNAS, 112(9): E966-E972.
 
注:すべての動物管理および使用は、AAALAC 認定を取得した施設にて IACUC 手順の審査および承認を経て動物倫理規制に従い行われました。

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