BT-474 ヒト乳管癌:古いモデルに新たな風を

執筆者:

Erin Trachet

日付: 

2020年5月

はじめに

BT-474 細胞株には長い歴史がありますが、自然の流れですぐに廃れていくだろうと多くの人が考えていました。

American Type Culture Collection(ATCC)の報告によりますと、BT-474 細胞株の歴史は1978年に遡り、進行期の浸潤性乳管癌を患っていた 60 歳の女性の腫瘍生検標本を取得した E. Y. Lasfargues が初めて確立したとされています。この細胞株は後に、エストロゲン受容体陽性(ER)、プロゲステロン受容体陽性(PR)、ヒト上皮成長因子受容体 2 陽性(HER2)(1)に分類されました。この情報は、前臨床乳癌研究で使用された BT-474 モデルを、同じ遺伝子プロファイルを持つ実際の患者様への使用に関連付ける際に非常に重要となりました。 

米国癌研究会議(AACR:American Association of Cancer Research)によると、すべての乳癌患者様の約 80% が ER 陽性であり、65% 以下が PR 陽性だとされています。ER と PR の両方が陽性の乳癌患者様は、ホルモン治療に反応する可能性が高いと言えます。さらに、乳癌患者様のうち 20% がさらなる HER2 発現を伴い、急速に増殖する浸潤性腫瘍と関連があります。BT-474 前臨床モデルと患者様のバイオマーカーの関連性、さらに乳癌治療の継続的な進歩への高いニーズも相まって、このモデルは in vitro および in vivo 両方の研究で大きな価値を発揮しました。

BT-474 の課題

しかし、話はそう簡単には進みません。BT-474(そして、その他いくつかの乳癌モデル)の問題は、in vivo での扱いが極めて難しい点です。

メスのヌードマウスの皮下、もしくは乳房脂肪体に移植すると、腫瘍の増殖速度は非常に遅く(腫瘍倍加時間> 20 日間)、増殖のばらつきと腫瘍の自然退縮が認められました。マウス株(SCDI またはヌード)、移植材料(腫瘍の断片または細胞)、細胞移植補助剤(Matrigel® あるいは脳の支持細胞層)、およびホルモン補助剤(エストラジオール)などの多様な複数の可変的要素を調整しようとする試みをよそに、この研究結果は、複数の研究にわたって共通しています。

この問題が原因で、BT-474 は非常に扱いづらいモデルと言えます。そのため、サイエンティストや研究者たちは、より研究を簡単にするため、また、信頼性の高いデータを生み出すために、類似する遺伝子プロファイルを持つ他のモデルを探さなければなりません。

しかし、BT-474 が満たす全基準(ER 陽性および HER2 陽性のヒト乳癌)を兼ねそろえたモデルが非常に少ないことから、当社はモデルの最適化を続けるため、さらなる努力をすることに決めました。加えて、NSG マウスの開発および利用拡大により、この最も免疫の欠失した株における BT-474 の増殖を評価することが可能になりました。 

分析

図 1 は、NSG マウスにおける BT-474 モデルの腫瘍増殖速度を示します。平均的な倍加時間は 12 日間以下です。腫瘍容積は着実に増加し、腫瘍に起因する体重の減少は見受けられません(データ記載なし)。150mm3(定着腫瘍)までの時間は移植後 7 日、1000mm3(評価サイズ)までは移植後 40 日でした。

6 か月間の研究のなかで、いくつか同様の増殖速度データが得られました。

データが明確に示すように、信頼性と再現性の高いこのモデルの新たな発展にとって、NSG マウスの利用は非常に重要でした。

図 1A:メスの NSG マウスにおける皮下 BT-474 の平均的な腫瘍増殖
図 1B:メスの NSG マウスにおける皮下 BT-474 の個々の腫瘍増殖

 

HER2 標的治療への反応

ネラチニブ(Nerlynx®)は、FDA 承認の受容体チロシンキナーゼ Her2(ヒト上皮増殖受容体 2)および EGFR(上皮成長因子受容体)であり、経口投与が可能な不可逆性の阻害剤です。21 日間連続で治療を受けた BT-474 皮下腫瘍を持つ NSG マウスに対する、10mg/kg および 50 mg/kg の両方でネラチニブへの反応を評価しました(図 2)。

ネラチニブを使用した治療は、体重の変化を最小限に抑え、両方の投与で良好な耐性を示しました。50mg/kg を投与する用法では、すべてのマウスで完全な腫瘍退縮が確認されました。少量の投与を行った治療では、腫瘍に最大 50% の成長阻害が起こり、用量反応が見られました。このデータは、BT-474 モデルが HER2 過剰発現および依存性を示したことを明確に証明しています。

図 2A:ネラチニブを使用した治療に伴う平均的な BT-474 腫瘍増殖
図 2B: ネラチニブを使用した治療に伴う個々の BT-474 腫瘍増殖
図 2C:ネラチニブを使用した治療に伴う平均的な体重変化の割合(%)

 

BT-474 - 強力な前臨床ツールの将来

低分子や抗体治療から細胞治療まで、乳癌の新たな標的治療に対する絶え間ないニーズを鑑みると、創薬研究のために所有する固有の細胞株を最適化することは当社の義務だと考えます。

前臨床モデルと癌患者様のギャップを解消できる、BT-474 のようなモデルの利用は必要不可欠です。NSG マウスにおける BT-474 乳癌モデルのオプティマイゼーションは、当社の有効な乳房の腫瘍モデルの進歩に大きく貢献してきました。さらに、当社はハーセプチンなど、その他の HER2 標的治療を BT-474 モデル内で評価していきます。

お客様の今後のオンコロジー研究に役立つ BT-474 やその他のモデルについて、当社のサイエンティストがご相談を承ります。ぜひコーヴァンスまでお問い合わせください。

1Xiaofeng Dai, Hongye Cheng, Zhonghu Bai and Jia Li. Breast Cancer Cell Line Classification and Its Relevance with Breast Tumor Subtyping. J Cancer. 2017; 8(16): 3131–3141.

 

注:各試験は、AAALAC 認定の施設で所定の動物倫理に従って実施されています。