ヒト急性リンパ性白血病(ALL)のモデリング - CAR T 細胞療法の開発における NALM6-Luc-mCh-Puro モデルの使用

著者:Gregor Adams 博士 | サイエンティフィック・ディベロップメント部門ディレクター
Date: July 2019


急性リンパ性白血病 (ALL) は、 未成熟なリンパ球の増殖を特長とするリンパ性の腫瘍です。ALL は比較的まれながんであり、米国におけるすべてのがんのうち ALL が占める割合は 0.5% 未満です。​​​​​​​米国がん協会 (American Cancer Society) は、2019年の米国における ALL の新規症例は約 5,930 件、死亡例は 1,500 件であると推定しています。しかしながら、研究者は ALL が小児がんに多いことに注目しています。ALL を発症するリスクは、5 歳未満の子どもで特に高くなります。このリスクは、20 代の半ばにかけてにゆっくりと下降し、50 歳以降で再び上昇します。ALL の発症例のほとんどは小児ですが、ALL による死亡例のほとんどは成人です。ALL の標準治療には、積極的化学療法や長期化学療法があります。こうした治療の結果、小児の 5 年生存率は 90% となっています。しかし、成人の無病生存率はおよそ 40% にまで低下します。この ALL の再発率より、他の治療法が求められています。

B 細胞 ALL に対する CAR T 細胞療法の使用

B 細胞 ALL に対するこうした治療法の一つに、CD19 タンパク質を標的としたキメラ抗原受容体 (CAR) T 細胞免疫療法があります。2017 年8 月 30 日に FDA の承認を受けた最初の CAR T 細胞療法であるキムリア(チサゲンレクルユーセル)は、小児または青年(25 歳まで)の再発・難治性 B 細胞 ALL の治療法です。この治療法の新アプローチは現在、全奏効率 81%(3か月)、長期寛解率 59%( 12か月)を示しています。従って、標準的な治療計画では再発するか難治性を示す患者に、治療可能な選択肢を提供できます。

再発難治性の患者集団にみられるこの奏効率は非常に印象的である一方、蓄積された経験から、相当数の患者においては完全に寛解していないことが示されています。部分寛解についての複数の推測では、複数回の化学療法に対する曝露やその他毒性物質への曝露に起因する、遺伝子改変 T 細胞集団の持続性低下および機能低下が示唆されています。さらに、悪性細胞集団にみられる標的抗原の損失または調節による再発も観察されています。CAR T 細胞療法の限界を克服するために、白血病細胞表面上に抗原を追加するデュアルターゲティングアプローチなどの様々な戦略が採用されています。しかしながら、この新しい治療法の可能を最大限に実現し、次世代の治療法を開発するには、特定の適応症に対する CAR T 細胞機能の全体的な生物学を理解するための継続的な取り組みが重要です。

B 細胞 ALL のモデルとしての NALM6-Luc-mCh-Puro 

臨床応用する CAR T 細胞療法の有効なスクリーニングと選択には、確実で信頼性の高い前臨床動物モデルが不可欠です。 We are optimally positioned to provide these models. 2003年、当社は血液悪性腫瘍への CAR T 細胞の有効性評価を目的とした研究の重要な要素である in vivo 生物発光イメージングを提供する初の開発業務受託機関 (CRO) となりました。 また、当社は CAR T 細胞製品における前臨床 in vivo​​​​​​​ 研究の知識と経験を積み重ね、この治療分野で医薬品開発をより深く追求するための重要な取り組みとして、24 を超えるクライアントに対し、200 件以上の研究を実施しています。詳細については、当社の養子細胞療法ページをご覧ください。

最近、当社では ALL のモデルとして NSG マウスの NALM6-Luc-mCh-Puro モデルを社内で樹立することで、ポートフォリオを拡大しました。この腫瘍株は、19 歳男性の ALL 患者から樹立されたものです。当社の Raji-Luc モデルなど、十分に樹立された他の B 細胞悪性腫瘍モデルの成長動態と同様に、6 ~ 7 週齢のメスの NSG マウスの NALM6-Luc-mCh-Puro 腫瘍細胞の成長は非常に堅実で、少量の細胞接種での再現性があり、腫瘍の倍化時間は 1 から 1.3 日を示しています(図 1)。

図 1: NSG マウスにおける NALM6-Luc-mCh-Puro の増殖動態

図 1: NSG マウスにおける NALM6-Luc-mCh-Puro の増殖動態

この腫瘍増殖率の結果、未治療の動物は急速に死に至っています。生存期間中央値は 24 日です(図 2)。腫瘍の後期ステージにあるマウスには後肢麻痺がみられる一方、安楽死させたマウスの解剖では、大半のマウスの脳に複数の小さな結節が観察されています。これは、ALL 患者の多くに中枢神経系 (CNS) の疾患がみられることを考慮すると、特に興味深いことです。

図 2: NALM6-Luc-mCh-Puro 生存機関中央値グラフ

図 2: NALM6-Luc-mCh-Puro 生存機関中央値グラフ

このモデルは、特に ALL の治療を目的とする適応において、B 細胞悪性腫瘍の治療法の前臨床開発に新たなもう一つのツールを提供します。 Contact us for your next ALL study or other B-cell malignancy related study.


参照

 
注:すべての動物管理および使用は、AAALAC 認定を取得した施設にて IACUC 手順の審査および承認を経て動物倫理規制に従い行われました。

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