Immuno-Oncology モデリングにおける hPBMC の前臨床使用に関する最新情報

掲載日:2020年7月

著者:Sheri Barnes 博士

詳細については、前臨床オンコロジー科学チームまでお問い合わせください。


2月にヒト末梢血単核細胞(hPBMC)の生着を利用した、ラボコープの新しいヒト化マウスプラットフォームの初期データをご紹介しました。

その後 NOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Wjl/SzJ(NSG)マウスを使用して 4 つの hPBMC ドナー細胞について調べると、hPBMC 移植後少なくとも 30 日目までの治療期間の T 細胞生着が一貫していたほか、hPBMC 生着 NSG マウスでは 2 つのヒト異種移植モデル、MiaPaCa-2(膵臓)と A549(NSCLC)が着実に成長していました。

ここでは、MiaPaCa-2 または A549 ヒト異種移植片を有する hPBMC 生着 NSG マウスを使用してペンブロリズマブ(Keytruda®、抗 hPD-1)で治療した時の初期の有効性データをご紹介します。

実験デザイン

この研究の目的は、NSG マウスの MiaPaCa-2 や A549 ヒト腫瘍モデルで hPBMC が生着した後にペムブロリズマブがどのような抗腫瘍反応をするのか評価することにあります。動物のケアと使用は、AALAC 認可施設での「Guide for the Care and Use of Laboratory Animals」(実験動物の管理と使用に関する指針)に従って実施されました。

まず、健常者ドナー 3 人から採取した hPBMC(Hemacare、米国カリフォルニア州ロサンゼルス)に腫瘍が定着(体積にして ~105〜118mm3)してから、NSG マウス(Jackson Laboratories、米国メイン州バーハーバー、株 No. 0005557)の静脈内に移植。hPBMC 移植翌日からペンブロリズマブでの治療を開始しました。 そして、ペンブロリズマブに対する反応と、 移植片対宿主病(GvHD)の兆候的特性を調べ、2 つ時点で全血採取を行ってヒトリンパ球マーカーをフローサイトメトリーで分析したところ、ドナーの CD45+ 細胞(CD4+ 細胞、CD8+ T 細胞を含む)の生着が確認されました。​​​​​​​​​​​​​​

MiaPaCa-2 と A549 が hPBMC 生着マウスの腫瘍増殖を抑制

MiaPaCa-2 の腫瘍倍加時間(Td:Tumor doubling)は無治療の対照群で〜 7 日、hPBMC を移植したグループではそれぞれ 〜 5 日 〜 7 日でした。

腫瘍の増殖は一様に進行し、36 日目までに平均腫瘍体積が 1000〜1200mm3 に達したものの、36 日目以降はグループ内、グループ間でばらつきが見られました。体積が 1000mm3 になるまでは、生着した hPBMC の影響はないようです(図 1)。

この結果から、3 つのドナー細胞がいずれも 1000mm3 を評価時体積(TES:Time to Evaluation Size)とする MiaPaCa-2 有効性研究に適していることが伺えます。

図 1. hPBMC 移植後に MiaPaCa-2 皮下腫瘍の増殖が抑制されていることを示すグラフ

図 1. hPBMC 移植後に MiaPaCa-2 皮下腫瘍の増殖が抑制されていることを示すグラフ

一方、A549 の Td は無治療の対照群で 〜 11 日、hPBMC を移植したグループではそれぞれ 9 日 〜 12 日 でした。

ドナー 1 とドナー 3 の hPBMC を移植したグループでは一様に増殖が起こり、40 日目までに平均体積が 1000 〜 1200mm3 に到達し、40 日目以降はばらつきが見られます。

A549 腫瘍とドナー 2 の hPBMC を持つマウスは、グループ内のばらつきが最も顕著でした(図 2)。

こうしたことから、ドナー 1 とドナー 3 は 1000mm3 を TES とする A549 の有効性研究に最も適していることが伺えます。

図 2. hPBMC 移植後に A549 腫瘍の増殖が抑制されていることを示すグラフ

図 2. hPBMC 移植後に A549 腫瘍の増殖が抑制されていることを示すグラフ

ヒトリンパ球の生着と残留

マウスに hPBMC を移植した後、28 日目と、38 日目(MiaPaCa-2)、42 日目(A549)に末梢血中ヒト免疫細胞マーカーの免疫表現型解析を行い、生着状況を評価しました。

フローサイトメトリーに使用したマーカーは、mCD45、hCD45、hCD3、hCD4、hCD8。ヒト CD45+ 細胞は、マウスが宿している MiaPaCa-2 腫瘍と A549 腫瘍の生細胞のパーセンテージを示し(下図、それぞれ図 3A と 3B)、hPBMC が生着していることを意味するものでもあります。

2 つの時点で採血を行ったところ、その両方ですべてのドナーの全血中に hCD45+ 細胞が検出され、発表されている論文の通りであることが分かりました。1​​​​​​​

グループ間のばらつきは顕著であったものの、生着状況は概ね一定で、1 度目と 2 度目の間に範囲が拡大。hPBMC の生着率は、A549 担癌マウスの方が MiaPaCa-2 担癌マウスよりも幾分高いように見受けられ、初期のモデル開発の際のデータと一致していました。

現時点では、これが研究間で通常あるものなのか、モデル依存性のものなのかはわかっていません。

図 3.  hPBMC 移植 NSG マウスの全血から検出された hCD45+ 細胞 <br>(A は MiaPaCa-2 異種移植、B は A549 異種移植)

図 3.  hPBMC 移植 NSG マウスの全血から検出された hCD45+ 細胞 
(A は MiaPaCa-2 異種移植、B は A549 異種移植)

図 4 は、全血中の CD4+ 細胞と CD8+ T 細胞の分布を示し、2 時点間の分布が一定していることが分かります。

これは MiaPaCa-2 担癌ドナー 1 マウスのものですが、同様のデータが全ドナー、モデルで報告されています。

数値としては、MiaPaCa-2 担癌マウスの CD4+ 細胞と CD8+ T 細胞がそれぞれ 42 〜 65%、32 〜 46%、A549 担癌マウスはそれぞれ 51 〜 67%、22 〜 44% でした(図なし)。

図 4. ドナー 1 の hPBMC を移植した MiaPaCa-2 担癌 NSG マウスの全血から検出された hCD4+ 細胞と hCD8+ T 細胞(hCD45+ 細胞全体に占める割合(%)として) 
図 4. ドナー 1 の hPBMC を移植した MiaPaCa-2 担癌 NSG マウスの全血から検出された hCD4+ 細胞と hCD8+ T 細胞(hCD45+ 細胞全体に占める割合(%)として) 

GvHD の発症については、体重と臨床観察によってモニタリングが行われました。病理学的には確認されていませんが、このモデルで観察された症状は同疾患2 と確かな相関関係があり、過去のデータ(図なし)とも相関しています。

ペンブロリズマブへの反応

興味深いことに、hPBMC 生着マウスにペンブロリズマブで治療を行ったところ、その試みの条件下では、MiaPaCa-2 と A549 のどちらも、どのドナーにおいても、腫瘍の増殖に影響はありませんでした(図 5、図 6)。

この記事の時点では、MiaPaCa-2 担癌 hPBMC 生着ヒト化マウスのペンブロリズマブに対する In vivo 反応に関する文献は不足しています。

とは言っても、当社のデータは Immuno-Oncology 薬による膵臓腫瘍の治療が難しいとするさまざまな論文の内容を反映しています。3 ペンブロリズマブの A549 に対する反応は、これまで報告されている通り中等度で、ドナーによって異なるように見受けられます。4​​​​​​​

ペンブロリズマブの A549 と MiaPaCa-2 に対する反応は一貫して欠けているとはいえ、これらのモデルは抗 hPD-1 との併用という合理的な戦略を用いることで有用な治療法になる可能性があります。さまざまなドナー細胞に見られるさまざまな反応には、改善と評価の余地が十分にあるのです。

図 5. hPBMC 移植後にイソタイプコントロールまたはペンブロリズマブ(抗 hPD-1)で治療した時の MiaPaCa-2 皮下腫瘍の増殖

図 5. hPBMC 移植後にイソタイプコントロールまたはペンブロリズマブ(抗 hPD-1)で治療した時の MiaPaCa-2 皮下腫瘍の増殖

図 6. hPBMC 移植後にイソタイプコントロールまたはペンブロリズマブ(抗 hPD-1)で治療した時の A549​​​​​​​ 皮下腫瘍の増殖

図 6. hPBMC 移植後にイソタイプコントロールまたはペンブロリズマブ(抗 hPD-1)で治療した時の A549​​​​​​​ 皮下腫瘍の増殖

hPBMC を NSG マウスに移植するとヒト T 細胞が残留し、その際 MiaPaCa-2 腫瘍 / A549 腫瘍の増殖への影響は最小限でした。 このアプローチは、ヒト T リンパ球を利用して直接的・臨床的に有意な抗腫瘍活性を導くヒト用新薬の効果を調べるための強力な前臨床プラットフォームとなります。

この後の取り組みでは、hPBMC で再構成した NSG マウスのヒト腫瘍異種移植片に対して FDA 承認済みの免疫療法を行った時に、ヒト T 細胞が腫瘍とその周辺にどう浸潤するかフローサイトメトリーを使って調べます。

ラボコープでは、こうしたヒト PBMC ドナー細胞を揃えており、お客様の研究ニーズに合わせてご利用いただけます。hPBMC 生着 NSG マウスがお客様の今後のトランスレーショナル Immuno-Oncology 研究にどう役立つか、前臨床オンコロジー担当のサイエンティストがご説明いたします。ぜひ当社までお問い合わせください。

参照


1.Todd Pearson, Dale L. Greiner, and Leonard D. Shultz. Creation of "Humanized" Mice to Study Human Immunity(ヒト免疫研究のための「ヒト化」マウス作成). 2008年. Current Protocols Immunology Chapter 15: Unit 15.21

 

2.Sina Naserian, Mathieu Leclerc, Allan Thiolat, Caroline Pilon, Cindy Le Bret, Yazid Belkacemi, Sébastien Maury, Frédéric Charlotte and José L. Cohen. Simple, Reproducible, and Efficient Clinical Grading System for Murine Models of Acute Graft-versus-Host Disease(急性移植片対宿主病マウスモデルのためのシンプル、再現可能、効率的な臨床グレーディングシステム). 2018年. Frontiers in Immunology (9): 10.

 

3.Robert J. Torphy, Yuwen Zhu, and Richard D. Schulick. Immunotherapy for pancreatic cancer: Barriers and breakthroughs(膵臓癌の免疫療法:障壁とその打開策). 2018年. Ann Gastroenterol Surg. 2(4): 274–281.

 

4.Shouheng Lin, Guohua Huang Lin Cheng, Zhen Li, Yiren Xiao,Qiuhua Deng,Yuchuan Jiang,Baiheng Li,Simiao Lin,Suna Wang,Qiting Wu,Huihui Yao,Su Cao,Yang Li,Pentao Liu, Wei Wei,Duanqing Pei,Yao Yao, Zhesheng Wen, Xuchao Zhang, Yilong Wu, Zhenfeng Zhang, Shuzhong Cui, Xiaofang Sun, Xueming Qian, and Peng Li. Establishment of peripheral blood mononuclear cell-derived humanized lung cancer mouse models for studying efficacy of PD-L1/PD-1 targeted immunotherapy(PD-L1 / PD-1 を標的とする免疫療法の有効性を研究するための、末梢血単核細胞由来のヒト化肺癌マウスモデルの確率). 2018年. MAbs. 10(8): 1301–1311.
 
注:すべての動物管理および使用は、AAALAC 認定を取得した施設にて IACUC 手順の審査および承認を経て動物倫理規制に従い行われました。

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