アンチセンスオリゴヌクレオチドによる筋ジストロフィーの治療について

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)のコミュニティにとって朗報です。 BioMarin は6月8日、欧州医薬品庁にドリサペルセンの医薬品販売承認申請を提出したことを発表しました。ドリサペルセンはアンチセンスを使用したエクソン 51 スキッピング化合物で、機能性ジストロフィンが生成されない最も一般的な遺伝子変異を標的とします 。今回のヨーロッパでの申請は、2015年4月に米国食品医薬品局(US FDA)に対して行なったドリサペルセンの新薬申請に続くものです。

ジストロフィンは通常、細胞骨格タンパク質と細胞外基質の橋渡しをする役割を果たし、収縮中の筋線維を安定化させます。DMD においてジストロフィンが生成されないと、心臓または呼吸器の障害により、20 代から 30 代の間に筋損傷や進行性の筋肉疲労、重度の障害、早期の死亡が生じます。

この命をも脅かす疾病に対して具体的な治療法がなかったことから、患者さんの寿命の長期化と生活の質の向上を求めて、新しい治療法の規制当局への申請に対する期待が高まりました。今回このグループの希少疾患に対する承認が得られれば、BioMarin や同様の化合物を開発する他の製薬企業による科学分野の継続的な取り組みが、さらに力強く後押しされることは間違いないでしょう。

希少疾患における臨床開発には、全利害関係者すなわち患者様とその家族、治験責任医師、分担医師、スポンサー、そして規制当局が抱える独特の課題があります。その課題というのは、経験の乏しいクリニックが治験を行なえるよう体制を整えること、支持団体との強力な関係づくり、他の研究と競り合う状況に遭遇した際の参加タイムラインの順守などで、これらを、研究の安全な実施や統一性の確保と併せて考慮しなければなりません。希少疾病の研究で実績のある研究団体はこれまでに、参加施設と患者支援団体に対して非常に強い協力的態度を示す、ダイナミックで柔軟かつ率先的に活動を行なうプロジェクトチームを結成してきました。ネットワークづくりは、希少疾病の分野のリサーチに欠かすことができません。2012年に欧州共同リサーチアクション(European Concerted Research Action(COST アクション BM1207、 www.exonskipping.eu)を導入したことは、新しいエクソンスキッピング療法の治療薬開発にとって大きな一歩と言えます。

DMD は、発病の割合が出生男児 5000 人中約 1 人という非常に稀な疾病です。この事態をより複雑にしているのが、ジストロフィン発現の回復を狙いとした最も先進的な 2 つのアンチセンスオリゴヌクレオチド化合物(BioMarin の Drisapersen と Sarepta の Eteplirsen)がターゲットにしている遺伝子変異は、DMD (1) 遺伝子を持つ患者さんの約 13% にしか存在しないということです。もし治療の開発が成功すれば、将来的に臨床開発プログラムでそれほど一般的でない遺伝子変異もターゲットになることが予想され、新しい治療法開発において治験に参加できる対象患者数が少なくなるほか、プラシーボ対照研究の利用が困難になる恐れもあります。それゆえに、数少ない、あるいは超少数の患者さんを対象とするエクソンスキッピング療法の開発プログラムが実際に行なわれるよう保証する、新しい規制モデルと医薬品開発のパラダイムが必要とされています。

この分野や他の希少疾患への新薬開発に対する規制環境の整備が進みつつあるのは、心強いことでもあります。画期的な出来事は、2013年2月に欧州医薬品庁が デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療製品の臨床試験ためのガイドライン (Guideline on the Clinical Investigation of Medicinal Products for the Treatment of Duchenne Muscular Dystrophy) ( PDF 資料 ) の第 1 号となる草案を発表したことです。草案では、治験の確証を得るための研究デザインを別途検討することの必要性が提唱されました。同様に米国でも最近、FDA が DMD に関するガイドラインの草案(デュシェンヌ型筋ジストロフィーおよび同疾患関連筋ジストロフィー:治療のための医薬品開発、業界向けガイドライン、2015年6月 (Duchenne Muscular Dystrophy and Related Dystrophinopathies: Developing Drugs for Treatment, Guidance for Industry, June 2015) ( PDF 資料 ) を発表し、DMD の臨床試験を外部から取り締まる規制を将来的に採用・導入する可能性について明確に示しています。

当社では近い将来、規制当局と患者支援団体の緊密な連携を利用し、治験参加者と同水準の治療を同時期に受けた過去の患者の治験データを用いて研究の登録を行なうことを視野に入れています。複数の自然史研究がこういった取り組みを支援しており、なかにはエクソンスキッピング新薬候補を開発する製薬企業がデザイン、出資しているものもあります。また、主要評価基準の研究も同じ線をたどりながら進展しています。患者さんと特定グループの遺伝子変異の関係を調べる研究では、6 分間歩行テスト (6MWT) (2)(3)(4) とノース・スター歩行能力評価 (NSAA) (5) において、様々な変化が見られたことが最近報告されています。この結果は、対象患者数が少ない治験の研究デザインを促進すると思われます。  さらに、有病率が低く、特定の遺伝子変異を対象とする患者集団のリクルートをうまく行なえば、治験責任医師 / 分担医師のパフォーマンス指標とセントラルラボの結果を統合しながら独自データベースの分析を行なうことでメリットがあることは十分考えられます。

今は、DMD の患者さんとその家族にとって期待を感じさせる時です。この激しく移り変わる希少疾病の治療開発分野に携わることのできる我々は幸運であると言えます。

Jesus Garcia-Segovia 博士は、コーヴァンスの医療および科学サービス部門神経科学グループのシニア医療ディレクターで、オリゴヌクレオチドをベースにした治療を扱うコーヴァンス エキスパート ワーキンググループのメンバーです。

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  • Ricotti V, Ridout DA, Pane M, et al. The North Star Ambulatory Assessment in Duchenne muscular dystrophy: considerations for the design of clinical trials. J Neurol Neurosurg Psychiatry Published Online First, March 2nd, 2015; doi:10.1136/jnnp-2014-309405

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