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Immuno-Oncology におけるプレシジョンメディシン

NIH はプレシジョンメディシンについて、「疾病の治療と防止における新しいアプローチのひとつで、人それぞれの遺伝子、環境、ライフスタイルのばらつきを考慮した手法1」と定義しています。これを癌患者様に当てはめて言い換えると、「癌の生物学を詳しく理解することによって、患者様に合った薬を適切なタイミングで提供すること」になります。

薬の適性の判断にはバイオマーカーを使用し、それによって、その患者様の癌治療にふさわしいものを見極めます。FDA はバイオマーカーを、「通常の生物学的プロセスや病原的プロセスのなかで、あるいは暴露や介入(治療介入を含む)に対する反応として測定された指標的特性2」と定義しています。これまで医薬品開発におけるバイオマーカーの発見や検証には、大きな躍進がありました。

治験において最も一般的に使用されるバイオマーカーのうちの 2 つ、予測バイオマーカーと薬理バイオマーカーは、医薬品開発プロセスに不可欠なものです。予測バイオマーカーは、その医薬品に反応する、または耐性がある可能性の高い患者様を特定します。予測型高精度バイオマーカーの一例として、免疫組織化学 (IHC) を使用した乳癌または胃癌の HER2 染色が挙げられます。HER2 タンパクが過剰発現(スコアが 2+ または 3+)した乳房腫瘍のある患者様には、Herceptin® を用いた治療が考えられます。耐性バイオマーカーもまた重要です。たとえば、パニツムマブ(大腸癌に対する使用が認められた EGFR 抗体)は、腫瘍組織に Kras 変異が見られる場合は禁忌薬となります3。それらのタイプのバイオマーカーはほとんどの場合、開発の初期段階に製薬会社が選びます。そのようなバイオマーカーは、動物や細胞モデルを用い、数百万ドルをかけて特定と基本の特性化が行われます。その後、治験で妥当性が実証されれば、開発中の医薬品のコンパニオン診断に用いられる可能性が出てきます。化合物の安全性と有効性を維持しながら、適した患者集団を対象とした医薬品開発を迅速化できるバイオマーカーは、製薬会社にとって非常に便利なものです。

コンパニオン診断薬の開発につながる予測バイオマーカーの発見は、プレシジョンメディシンにとって重要ですが、その実現は容易ではありません。適正なバイオマーカーの発見と、関連する医薬品が承認されること、この 2 つの条件が同時に満たされなければなりません。しかし、医薬品の承認を得るのは簡単ではないのです。臨床検査に至った医薬品のうち、政府機関から承認を得るものはわずか 10 パーセント程度にすぎません。また、検証される数千のバイオマーカーのうち、治験にまで至るのは 2、3 件だけ4、コンパニオン診断薬になるものはさらに限られます。16 種類の医薬品に対して FDA がこれまで承認したコンパニオン診断は合わせて 32 のみで、1988年以降に承認された全医薬品のうちコンパニオン診断を利用したものは約 9 パーセントということです(図 1)5。これらの数値からも、コンパニオン診断につながるバイオマーカーの発見と妥当性の証明の難しさは明らかです。しかし発見できれば、医薬品開発企業は数億ドル単位の節約が可能になるのです。

図 1

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1998年以降では、コンパニオン診断を利用した 16 の医薬品(薄いグレー)が FDA によって承認された一方、151 のオンコロジー医薬品(ダークグレー)がコンパニオン診断なしで承認されています。コンパニオン診断の試験を要する医薬品は、Herceptin (1998)、Gleevec® (2002)、Iressa® (2003)、Erbitux® および Tarceva® (2004)、Vectibix® (2006)、Xalkori® および Zelboraf® (2011)、PERJETA® (2012)、Gilotrif®、Kadcyla® および Mekinist®/Tafinlar® (2013)、Lynparza® (2014)、Keytruda® および Tagrisso™ (2015)、Venclexta™ (2016) です。1998年から2016年8月までは、承認されたオンコロジー医薬品の 9.6 パーセントだけがコンパニオン診断の試験を義務付けられていました。

薬理バイオマーカーとは、化合物の処理によって変化するマーカーを指します。分子の作用機序 (MOA) に関する手掛かりを与えてくれる重要なものです。薬理バイオマーカーは医薬品の目的に従った作用過程を検証できるため、ヒトに対する初期試験に極めて有用です。それらは、医薬品が阻害している経路の検証や、試験を行ったモデルで観察された二次的効果により、前臨床開発で頻繁に発見されます。薬理バイオマーカーは前臨床およびフェーズ I の治験では多用されていますが、医薬品開発プロセスの後半段階では使用が大幅に減ります。これらのバイオマーカーは、コンパニオン診断としては用いられない傾向があります。

Immuno-Oncology (IO) に対するプレシジョンメディシンの適用は、過去に使われた手法をそのまま用いればいいわけではありません。癌に作用するよう患者様の免疫系を治療する仕組みであるため、複数の要素について考えなければなりません。つまり、免疫系と腫瘍の両方を検証する必要があるということです。薬理バイオマーカーを開発する際、研究者は薬物活性の指標として、免疫細胞の総数や増殖、または特定の免疫細胞の活性化状況を検証する場合があります。たとえば、CTLA-4 阻害剤の Yervoy® による治療を受けた患者様の、末梢血におけるリンパ球の総数もそのひとつです。阻害剤を増やす治療を受けた患者様は、ALC のレベルがより高いことが分かり、その医薬品に制御性 T 細胞の活性を下方制御する望ましい効果があることが示されました。結果として、循環血液中により多くのリンパ球が観測されました(図 27)。

図 2

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また、腫瘍に関連する細胞の T 細胞受容体 (TCR) をシークエンシングすることで、T 細胞の総数とクローナリティを検証することもできます8。腫瘍にともなう T 細胞のクローナリティは、腫瘍に対する免疫反応の指標となります。これらのバイオマーカーは、正しい作用機序の手掛かりを提供するだけでなく、治療に適した IO 薬の選択肢も示唆してくれます。たとえば、患者様の免疫系が自身の腫瘍を認識できることが分かれば、PD-1 や CTLA-4 のようなチェックポイント阻害薬の使用が適切な処置である可能性が考えられます。一方、免疫系が腫瘍を認識しない場合は、ワクチンによる刺激が治療に適しているかもしれません。バイオマーカーは、免疫系が腫瘍を根絶するために用いるメカニズムを突き止め、それぞれの患者様にどのタイプの薬剤が適しているか手掛かりを得る役割を果たします。

予測バイオマーカーも IO に見られるもので、特に腫瘍そのものに関連している IO に多く用いられています。それらの発見には複数の方法があり、病理学的染色による腫瘍に含まれる細胞(免疫細胞を含む)の検証、エフェクター T 細胞と制御性 T 細胞の割合の比較、腫瘍の外と比べた中心部の免疫細胞の数などです。興味深いことに、バイオマーカーのひとつはすでに IO、PD-L1 IHC のコンパニオン診断として開発されています。このバイオマーカーで陽性となった患者様は、PD-1 阻害剤の Keytruda(ペンブロリズマブ)による治療が可能です(図 3)9。すなわち、プレシジョンメディシンが癌免疫療法の反応を高める効果があることを示した最初の例となっています。 ひとつ注意すべき点として、患者様の選定が全体的な反応率を高める一方、患者様の約 10~25 パーセントはこの試験で低発現または陰性を示しており、薬に反応することができます(緑とオレンジの線を、染色レベルが 50 パーセントを超えた患者様を示す黒の線と比較)。患者様の反応率を高めるには、この医薬品はまだまだ研究が必要です。

進化を続ける癌免疫療法とプレシジョンメディシンの連携には、患者様に明るい未来を約束し得る可能性があります。免疫療法は、一部の患者様に最大 10 年の延命効果をもたらしはじめています10。新しいチェックポイント阻害剤からワクチン、ペプチドおよび新抗原まで、それぞれ異なる免疫系の部位を治療する新薬の開発も進められています。上記のような免疫療法とプレシジョンメディシンの 2 つのアプローチを組み合わせることで、医薬品に反応する患者様の割合を高めるという目標に向かって、さらに確実で継続的な反応が期待できます。楽観的ではありますが、癌の深刻度を慢性疾患にまで軽減したり、あるいは撲滅するという想像は決して実現不可能なことではないのです。

Suso Platero 博士:Covance, Inc.プレシジョンメディシン担当エグゼクティブダイレクター、臨床開発サービス部門オンコロジーリーダー


1 https://www.nih.gov/precision-medicine-initiative-cohort-program

2 http://www.fda.gov/Drugs/DevelopmentApprovalProcess/DrugDevelopmentToolsQualificationProgram/ucm284076.htm

3 Amado、他。J Clin Oncol、2008

4 Kern, S 癌研究、2012

5 Dracopoli、他。薬理科学における動向(Trends in Pharmacological Sciences)、2017; 38: 41-54

6 Wolchok、他。ランセット・オンコロジー(The Lancet Oncology)、2010; 11: 号 2,155-64

7 Robins、他。科学トランスレーショナル医療(Science Translational Medicine)、2013年12月

8 Garon E、他。N Engl J Med、2015; 372:2018-2028

9 Schadendorf、他。JCO doi:10.1200/JCO.2014.56.2736

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