ワクチンと免疫療法薬:成功のチャンスを高める 3 つの方法

前臨床 Immuno-Oncology 薬理のモデリングの状況

癌免疫学は Immuno-Oncology  (I/O) とも呼ばれますが、その歴史は 1890年に、William Coley がある細菌株の感染によってできた悪性腫瘍を治療しようと取り組んだところにまで遡ります。1 それから早 120年、これまで複数の癌において、T 細胞の癌特異的な負の制御経路を対象としたチェックポイント阻害抗体が複数、臨床的成功を遂げてきました。2 CTLA-4 や PD-1、PD-L1(イピリムマブ、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、アテゾリズマブなど)を標的とした抗体が臨床的成功を果たしたことで今、 新しい免疫療法を開発しようとするバイオテクノロジー企業や製薬各社の膨大なリソースが前臨床の I/O 研究に向けられています。

免疫療法を開発する腫瘍学者と免疫学者にとって常に問題になるのは、それらの試験で適用する忠実な前臨床モデルのための要件です。​​​​​​​ 定義上、こうしたモデルは無傷の免疫系を必要とするため、オンコロジーの前臨床研究で広く使用されている従来のヒト細胞株の異種移植片は適切ではありません。それでは、Immuno-Oncology の前臨床研究には一体どのような選択肢が残されているのでしょうか?図 1 は、新規 I/O 薬の試験で最もよく使用されるモデルを、その長所および短所も合わせて説明しています。

図 1:マウスでの Immuno-Oncology モデリング

同系マウスモデル

前臨床の I/O 薬理学的研究で群を抜いてよく利用されているモデルは、同系マウスの腫瘍細胞株です。このモデルは、老齢マウスに自然発生した腫瘍を利用するか、発癌物質による誘導で開発します。これらの細胞株は遺伝的に同系の宿主に移植すると、腫瘍抗原を介して、腫瘍に対して免疫反応を起こす能力をシミュレーションすることができます。悪性腫瘍の増殖とともに進化する免疫系の動態が正確に再現されるわけではありませんが、研究者は新しい免疫療法、つまり腫瘍特異的 T 細胞を活性化させて、抗腫瘍免疫力の効果を妨げる免疫抑制経路を阻害する治療法をテストできるようになります。これらのモデルは入手しやすいため、スピーディで効率的な研究が可能です。また、新しい免疫療法研究での使用実例が収録された公開文献の大規模なレポジトリもあり、新薬との比較ができることから、このモデルは事実上の「業界標準」となっています。

同系マウスモデルは、多くの I/O 医薬品開発プログラムにとって理想的ですが、重大な欠点もいくつかあります。特に問題なのは、生物学的治療法がマウスのオルソログ(存在した場合)に対して交差反応性であるか、もしくはマウスに反応する代用のオルソログを作成しなければならないことです。これは、候補治療薬の開発に伴うコストと時間が大幅に膨らむ可能性があるため、大きな障壁になりがちです。2 つ目の欠点は、非同義変異がヒトの癌に見られるよりもかなり多いため、ネオ抗原負荷が頻繁に発生することです3,4。免疫療法で同系マウス腫瘍細胞株を使用するにあたっての最大の懸念のひとつは、このモデルが、臨床への応用を踏まえた予測力に欠けると見られていることです5。臨床反応についてモデルから予測できることとできないことを考察すれば、ブログ数回分の記事になるでしょう。とはいえ、医薬品開発で標的の生物学的モデリングを行う際は、マウスの免疫系とヒトの免疫系との違いをよく認識しておく必要があります。​​​​​​​​​​​​​​

GEM モデル

遺伝子組み換えマウス(GEM)癌モデルは、新しい免疫療法における薬理学的モデリングの代替的アプローチとなっています。このモデルでは、臨床的に関連するドライバー癌遺伝子と腫瘍抑制因子の変異 / 損失を利用して、標的組織で多段階発癌を誘発します。​​​​​​​ これによって、特定の発癌性ドライバー(Braf など)を対象とした標的療法を、免疫療法と組み合わせてテストできるようになります。腫瘍は、無傷の免疫系と連動して新生するため、免疫系とヒトの癌細胞の間の細胞動態がよく再現されているように見えます。

GEM モデルには数多くの長所がありますが、注意すべき問題点もあります。たとえば、自然発症型 GEM モデルでは、発癌が確率論的性質を持つことから実験が極めて長期化し、参加登録を随時行うアプローチなしでは実施が困難になります。結果として、マウスのコロニーを維持したり、長期間研究を監視したりするのに莫大なコストがかかります。GEM 由来の移植可能なフラグメントを使用すると、マウス細胞株モデルと同じように試験を組み入れて実施できるため、I/O の薬理学に対してより扱いやすくなります。​​​​​​​​​​​​​​ ただし、GEM フラグメントはナイーブな同系宿主に移植されるため、「既経験」の免疫系をシミュレーションすることはなくなります。最後に、GEM モデルは、強力な発癌性ドライバーと腫瘍抑制因子の損失を利用して発癌させるため、変異の負荷が小さいのが特徴です。つまり、腫瘍の形成に追加的な突然変異は必要ありません4。免疫系にとって認識できるネオ抗原が非常に少ないため、このことは T 細胞腫瘍抗原の特異反応を誘発するうえで大きな障壁となっています。

HIS モデル

ヒト免疫系 (HIS) マウスは、 I/O の薬理学的モデリングのもうひとつの In vivo アプローチです。HIS マウスに分類されるモデルは数多くありますが、そのほとんどは、非肥満性糖尿病 (NOD) -scid IL-2Rgammanull(NSG または NOG)をバックグラウンドとして再構成されています。最も広く利用されているモデルは、ヒト末梢血単核細胞 (PBMC) 再構成マウス (huPBMC-NSG/NOG) と CD34+ 造血幹細胞再構成マウス (huCD34-NSG/NOG) の 2 つです。HIS マウスでは、ヒト標的に対して働く抗体を、げっ歯類の交差反応や代理抗体を要することなくテストすることができます。さらに、免疫系がヒト化されているため、新規薬剤を、臨床で承認済みのチェックポイント阻害抗体と組み合わせることもできます。患者由来の異種移植片 (PDX) モデルを huCD34-NSG マウスに移植すると、ヒトの癌微小環境の大半を保持する腫瘍を標的とする免疫療法をテストできるようになります。

HIS マウスは、マウスに反応する被験薬剤や標的のマウスオルソログが存在しない場合に役立つモデルですが、 ヒト(またはマウス)の完全に機能する免疫系がありません。​​​​​​​ huPBMC-NSG マウスは、CD4+ と CD8+ T 細胞にしか生着せず6、さらにその T 細胞は、移植後 4〜5 週間の間に宿主マウスで致死的な移植片対宿主病 (GVHD) を発生させます。huCD34-NOG マウスで成熟するヒト T 細胞には、活性化誘導型細胞死の加速、増殖能力の低下 、インターロイキン 2 (IL-2) の産生低減、CD8+ T 細胞の持続特性の弱化など機能上の欠陥が複数あります7,8。そして、huCD34-NSG マウスで発生する NK 細胞も機能的に不活性です8。最後に、同種異系の PDX 腫瘍モデルやヒト細胞株と合わせて使用すると、忠実な自己抗腫瘍免疫モデルというよりも、同種移植拒絶モデルになることが挙げられます。ヒトサイトカイン遺伝子組み換えマウスを使って完全なヒト免疫を再現しようとする取り組みに加え、さらなるヒト組織の移植は、いまだに続いています9。しかし、研究者が制約を認識している限り、こうしたマウスは実際のヒト標的への薬剤投与に向けたひとつの機会となります。

結論

今後も、モデルでヒトの免疫系が生物学的に完全に再現されることはないでしょう。しかし、モデルの癌細胞や候補治療薬への反応を手掛かりにしつつ、さまざまなモデルの長所と短所を理解することで、I / O の薬理学者は研究に最も有益な情報をもたらす選択を下すことができるはずです。 ぜひ当社までお問い合わせください。治療候補薬に最適なモデルについてご相談を承ります。


1Coley WB. The treatment of malignant tumors by repeated inoculations of Erysipelas, with a report of ten original cases. Am. J. Med. Sci. 1893; Vol. 105:487–511.

2Blumenthal GM and Pazdur R. Approvals in 2016: the march of the checkpoint inhibitors. Nat. Rev. Clin. Oncol. 2017; Vol 14(3):131-132.

3Chalmers ZR et al. Analysis of 100,000 human cancer genomes reveals the landscape of tumor mutational burden. Genome Med. 2017; Vol 9(1):34.

4McCreery MQ and Balmain A. Chemical Carcinogenesis Models of Cancer:  Back to the Future. Annu. Rev. Cancer Biol. 2017; Vol 1:295–312.

5Lechner MG, Immunogenicity of murine solid tumor models as a defining feature of in vivo behavior and response to immunotherapy. J. Immunother. 2013; Vol 36(9):477–489.

6van Rijn RS et al. A new xenograft model for graft-versus-host disease by intravenous transfer of human peripheral blood mononuclear cells in RAG2−/− gammac−/− double-mutant mice. Blood.  2003; Vol 102:2522–2531.

7Watanabe Y et al. The analysis of the functions of human B and T cells in humanized NOD/shi-scid/gcnull (NOG) mice (hu-HSC NOG mice). International Immunol. 2009; Vol. 21(7):843–858

8Andre MC et al. Long-Term Human CD34+ Stem Cell-Engrafted Nonobese Diabetic/ SCID/IL-2Rgnull Mice Show Impaired CD8+ T Cell Maintenance and a Functional Arrest of Immature NK Cells. J. Immunol. 2010; Vol 185:2710–2720.

9Rämer PC et al. Mice with human immune system components as in vivo models for infections with human pathogens. Immunol Cell Biol. 2011; Vol 89(3):408-16.

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