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コーヴァンスブログ - 医薬品開発におけるイノベーションの共有
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    • 標的介在性の薬物動態 (TMDD)


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      公開: 2018年1月26日 10:54 AM

      「親和」は、人の場合「他人に対して自発的に生じるもの、自然な好意、あるいは共感」などとして定義されますが、 データこの概念は、コーヴァンスが開発支援を行うバイオロジックス(高分子)にも当てはまります。モノクローナル抗体 (mAb) や二重特異性抗体は理想的な薬剤候補と言え、その理由として標的物質 / 部位との結合における親和性が非常に高い点が挙げられます。標的となるもの、安全性プロファイル、治療期間はいずれも変化することから、標的に対する親和特性を知り、標的介在性の薬物動態 (TMDD) といった各現象の捉え方を理解することが大切です。

      TMDD とは?

      TMDD とは、PK 特性に影響を与えるほど薬物と薬理学的標的部位(受容体など)が高い親和性で結合する現象のことを指します。この概念は1994年に Gerhard Levy が初めて考案して以来、TMDD の理解促進と応用を焦点に広範な研究が行われてきました (1)。薬剤標的複合体が結合後に消失し、薬剤の分布・消失双方に影響が及ぶと、PK は用量依存性・非線形性を示すようになります。最も多いのが、高用量や高濃度での線形性 PK、そして低用量や低濃度で見られる非線形性 PK です。

      TMDD PK モデルとその特性

      バイオロジックス開発を成功させるためには、人体暴露時の正確な予測ができなければなりません。それが TMDD を持つ薬剤となると課題はさらに膨らみます。暴露時の線形特性を考えると、シンプルな相対成長モデルを当てることはできません。必要なのは、薬物標的の相互作用を定量的に示す機構ベースのモデル、つまりシミュレーションと予測をより正確に行えるモデルなのです。これまで、さまざまな TMDD モデル構造が提案されてはデータ検証がなされたり、予測に利用されたりしてきました。以下に代表的な例を示します。

      こうしたモデル構造は一般的に、薬剤の投与経路(経静脈か否か)、薬物分布(コンパートメントの数)、標的の場所(組織または血液)、結合キネティクス(速い / 遅い、親和性の高低、可逆的結合の有無、標的は一つか複数か、消失機序、その他)などの要因によって決定まります。

      TMDD の PK 特性でカギとなるのは作用が用量依存という点です。下図では、薬物をさまざまな用量で静脈内にボーラス投与した際の一般的な濃度到達時間を、上の図のモデル構造と合わせて示しています。濃度到達時間のプロファイルは、濃度によって 4 段階に分かれます。最初の段階では、薬物が標的と結合し末梢コンパートメントに分布するにつれて、濃度が急激に低下します。第二段階では線形消失が見られ、標的が薬物で飽和したことを意味します。この時点での消失は、主に標的ではない関連経路で起こり、同時に、無視できるほどわずかな一定の速度による標的介在性消失が起こります。この時、PK はほとんど線形性を示します。第三段階になると、濃度はやや低く、標的は飽和状態でないものも出てきます。この段階では非標的介在性、標的介在性の消失経路がどちらも重要で、PK は非線形性を示します。最終段階では濃度は非常に低く、標的は不飽和状態です。標的介在性の消失が主な消失経路となり、PK は再び線形となります。

      ブログチャート

      モデル形態や他の要素(結合キネティクス、標的の交換回数、薬物消失、薬物標的複合体など)によっては、薬物の濃度到達時間プロファイルにすべての段階の線形状が表れないことがあります。また、もうひとつの共通要素として、生物分析の検出感度が挙げられます。というのは、高感度分析では低濃度での検出が限定的になり得るからです。抗薬物抗体 (ADA) もバイオロジックスの代表格ですが、この抗体も濃度到達時間のプロファイルの形状に影響を及ぼします。したがって、TMDD PK プロファイルの特性を理解しておけば、非線形特性の理由が TMDD なのか ADA のなのかを判定する際にも役立ちます。

      TMDD モデルの利用ケースとモデル構造の決定

      すべてのケースで TMDD モデルが必要とも限りません。TMDD モデルをいつ利用するかは、分子のタイプや濃度到達時間プロファイルの形状、ノンコンパートメント PK 分析 (NCA) の結果などに基づいて決定します。バイオロジックスは、標的と高い親和性で結合するよう作られていることから、PK プロファイルが TMDD である傾向が高くなります。とはいえ、低分子にも TMDD は見られます。濃度到達時間プロファイルの形状と NCA 分析の結果から、非線形クリアランス (CL) と分布量 (V) が TMDD キネティクスとなるかどうかが分かります。TMDD のモデル構造は、薬物と薬理学的機構のデータに基づいて決定すべきです。標的の特性(可溶性か否か、場所、濃度、薬物結合キネティクス)も判断材料になり得るでしょう。こうした情報 / パラメータは In vitro 試験で測定できるほか、標的が飽和していない場所の濃度が分かれば、データフィッティングで予測することも可能です。

      TMDD モデルをヒト PK 予測に応用

      ヒトの mAb PK 予測にあたっては、サル (NHP) の PK データを使用するのがより望ましく、推奨されると複数の研究が結論付けています(2)。ヒトと NHP は配列の同相性がより高いため、治療用 mAb の多くがげっ歯類の抗原よりも NHP の抗原とよく結合することが確認されており、これはそうした背景が根拠となっています。PK のパラメータ(CL および V)は、 相対成長式でヒトに当てはめて測定できるほか、濃度到達時間プロファイルを種不変の時間法でサルからヒトに変換し推定することもできます。標的パラメータで関連性のあるものは通常、サル・ヒトとも同じものを用いたり、実験的決定値があればそれを用いたりします。また個々のパラメータの影響を推測するために、感度分析を実施することもあります。ただ、患者様の PK 予測においては注意が必要です。というのは、病態によってはパラメータが健康なサルのものと大きく異なる場合があるからで、入手できる情報に基づいて評価 / 正当化を行う必要があります。

      バイオロジックスの薬剤候補は、それぞれが固有の機序とパフォーマンスを持つものの、類似した特性もあり、開発という点では同じ方向性を追求しています。経験と慎重な研究が揃ってこそ初めて TMDD モデル開発が成功し、専門的科学に対する「高い親和性」が実現します。

       詳しくはコーヴァンスのサイトをご覧ください。

      参照

      1. Dua, P. 他 / 標的介在性薬物動態 (TMDD) モデルに関するチュートリアル (A Tutorial on Target-Mediated Drug Disposition (TMDD) Models) CPT Pharmacometrics Syst Pharmacol / 2015;4(6):324-337
      2. Aman, P 他 / ヒトにおける mAb 薬物動態の定量的予測 - 標的介在性薬物動態 (Quantitative prediction of human pharmacokinetics for mAbs exhibiting target-mediated disposition) AAPSJ / 2015; 17(2), 389-399.

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