多剤併用に対するスタンス:医薬品開発プロセスの薬物間相互作用 (DDI) を理解

2018年は、FDA をはじめとする規制当局が、IND 申請前の非臨床の薬物間相互作用 (DDI) 試験に対する要件に関わる法律をさらに増やして制定・施行する見込みです。体内に入った医薬品が他の薬剤 / 物質とどのような相互作用を起こすのか、その可能性を調べることは市販薬開発の重要な部分でもあります。

ここでは DDI について、そして DDI が医薬品開発プロセスにどう影響するのかまとめました。

薬物間相互作用 (DDI) とは?

DDI 試験の重要性を理解しやすくするために、皆さんにご紹介したい人物がいます。架空の患者 Tony です。ある日、Tony は診察室に入り、一通りの医師の診察を受けた後、フルボキサミンを処方されました。フルボキサミンは一般的な選択的セロトニン再摂取阻害剤 (SSRI) で、強迫性障害をはじめ鬱病や不安障害などの治療薬として世界で広く使用されています。Tony は胃酸の逆流にも悩まされていて、胸焼けを抑えるために市販のオメプラゾールを服用しています。そして、私たちと同じく、彼も本物のコーヒー、つまりノンカフェインではないコーヒーが大好きです。

Tony は普段、午前中のミーティングはカフェインが入ると調子がよく、昼食前にお気に入りのメニューに備えてオメプラゾールを飲んでおけば、午後のミーティングでさらにずっと調子がよくなります。ところが、今週は違いました。午前中は神経過敏でイライラしがちで、いつも通りのことをやっていたにもかかわらず午後は頭痛が治りません。

これはまさしく、医師が処方した新しい薬の副作用に違いない。そう思われますよね?はい、その通りです。Tony の不調は新しい薬によるものでした。ただ、それはフルボキサミンが直接引き起こしたものではなく、 実はフルボキサミンが彼の体内にあったカフェインとオメプラゾールの間で相互作用を起こしたのが原因です。それが彼の薬物動態を変え、結果的に普段の薬物レベルを大きく超えてしまったからだったのです。

この相互作用の影響が全体的にどの程度になるかは、その人が持つ CYP2C19 遺伝子型によって異なります (Yasui-Furukori, Takahata et al. 2004)。 また図 1 は、Tony の体内で薬剤が時間経過とともにどのような代謝を経たかを、Tony と同じ遺伝子型の人に対してフルボキサミンとコーヒーにオメブラゾールがどう作用したのかに基づいて示しています。

医師に電話で相談して新しい薬を処方してもらった後、Tony の生活は元に戻りました。でも、彼の苦難を避ける手段はあったのでしょうか?

医薬品候補の化合物があらゆる他の物質、あるいはそれらの組み合わせとどのような相互作用を起こす可能性があるのか。それを市場投入前に知ることは果たして可能でしょうか?

一様ではない多剤併用の現状

Tony のストーリーでは、DDI の一例がうまく説明されていました。しかし、検証を要するさまざまな要因が増えていることもあり、まだまだ不十分です。

高齢化が進むにつれて、患者様の約 33 パーセントが多剤併用状態にあると言われています (Bjerrum, Gonzalez Lopez-Valcarcel et al. 2008)。5 種類以上の薬を服用している人の比率は、年齢が上がるにつれて増加します (Charlesworth, Smit et al. 2015):

65〜69 歳:25% の人が 5 種類以上の薬を服用
70〜79 歳:46% の人が 5 種類以上の薬を服用
また、一度に 20 種類を上回る薬の処方を受けている人も少なくありません。

これが患者様と医師にとってどれほど大変なことか想像してみてください。医師は、20 種類を超える薬を服用している人の健康管理に当たらなければならないのです(もちろん、患者様は服用するすべての処方薬 / 市販薬についてきちんと情報を開示しています)。そして、患者様は「この薬は午前中に服用するように」、「この薬は食事と一緒に」、「この薬は食事時間を避けて」など、判読できないほど小さい文字で記載された何ページもの指示を頭に入れなければなりません。確かに、遍在するよくできた薬は患者様の毎日に役立つものの、その服用形態は極めて複雑で、それが大きな混乱となり、ひいては深刻な DDI のリスクにつながりかねません。

深刻な薬物間相互作用を起こす可能性が高い多剤併用

これまでの話を踏まえると、医薬品が体内で他の薬や物質(コーヒーなど)と相互作用を起こすことが多くの患者様にとって問題となっているのは不思議ではありません。

実際、軽度、中等度、重度の薬物間相互作用を経験する患者様の割合は、処方される薬の数が増えるとともに増加しています (Bjerrum, Gonzalez Lopez-Valcarcel et al. 2008)。

なかには深刻な怪我や死につながるケースもあります。残念なことに、医師は薬に問題があるときに DDI の症状を見誤って新しい薬を処方し、状況をさらに悪化させてしまうことがあります。つまり、こうしたケースの多くでは問題は避けられたのです。

幸い、先ほどの Tony は症状が現れた時点ですぐに医師に連絡しました。でも、もしも連絡していなかったら・・・。

こうした DDI はどうすれば回避できたのでしょうか?薬の箱に入っている指示の説明が不十分であったがために DDI が起こったのでしょうか?患者様は服用するすべての市販薬について情報を開示していたでしょうか?問題は複雑そのもので、一体どこから手をつければよいのでしょうか?

早期の DDI 試験と PK/PD 予測モデリングに期待

ではまず何か、サイエンティストである私たちの力のおよぶ範囲にあること、医薬品開発の裏付けとして生成されるデータについて見てみます。

薬物間相互作用の予測性を高め、特定の状況で問題となりうる医薬品の情報を医師や患者様、規制当局により的確に知らせるには、DDI 試験を新薬開発の早い段階、できれば IND 申請の前に行わなければなりません。

FDA も同じ意見のようです。昨年秋、FDA は In vitro 薬物トランスポーターに関する新しい規制を提案し、DDI 試験を IND 申請前に完了させること(開発プロセス後期まで待たずに)を義務付ける方針を示しました。この規制は2018年末までに施行されることが広く予想されています。

そのほか、PK/PD 予測モデリングおよびシミュレーションを臨床(FIH 試験)ではなく、前臨床で行って医薬品候補化合物の薬物間相互作用の可能性を特定するという手法もあります。 また母集団モデリングを利用すると、特定の集団やさまざまな遺伝子の集団のなかで薬物が互いにどう作用するのか予測するうえで役立ちます。

多剤併用が進む今の状況は、しばらく収まる気配はありません。しかし、これから新しい薬となっていく物質が他の薬とどのような相互作用を起こするのか理解することは、私たち医薬品開発に携わる者の責任であると言えます。

参照:

Bjerrum, L., et al. (2008). "Risk factors for potential drug interactions in general practice(一般診療における薬物間相互作用のリスク要因)." Eur J Gen Pract 14(1): 23-29.

Charlesworth, C. J., et al. (2015). "Polypharmacy Among Adults Aged 65 Years and Older in the United States(米国における 65 歳以上の多剤併用): 1988-2010." J Gerontol A Biol Sci Med Sci 70 (8): 989-995.

Yasui-Furukori, N., et al. (2004). "Different inhibitory effect of fluvoxamine on omeprazole metabolism between CYP2C19 genotypes(CYP2C19 遺伝子型別にみたオメプラゾールの代謝に与えるフルボキサミンの抑制性影響)" Br J Clin Pharmacol 57(4): 487-494.