新しい幹細胞療法による加齢黄斑変性 (AMD) の治療

Audacious Goals Initiative(「大胆な目標」イニシアチブ)と 米国立眼病研究所 (NEI) について

「再生医療のための 「大胆な目標」イニシアチブ(AGI: Audacious Goals Initiative)は、米国立眼病研究所(NEI : National Eye Institute)が運営するプログラムで、 今なお治療が困難な眼病の新しい治療法を見つけることを目的としています。

米国では加齢による黄斑変性が失明の原因の第 1 位で、総人口の 2.5% がこの病気を抱え、その大半が 50 歳以上です。AMD の進行を遅らせる有望な治療法はなく、現状ではいったん発病すると止めることも回復に向かわせることもできません。米国においては「乾燥型」が AMD の最も一般的な進行タイプで、患者様の 80〜90% がこのタイプです。なお、乾燥型 AMD の治療薬や治療法で承認されているものはひとつもありません。

AMD は進行期に入ると網膜下の網膜色素上皮 (RPE) 細胞が破壊されます。このため、視力回復の方法として、破壊された RPE 細胞を置き換える治療法の研究が進められています。そのアプローチのひとつに、人工多能性幹細胞(iPS 細胞)を新しい RPE 細胞に変換し、それを眼に注入するというものがあります。​​​​​​​

国立眼病研究所 (NEI) の研究者たちは、網膜下に到達する新システムを開発しました。患者様の多能性幹細胞に由来する RPE 細胞です。iPS 細胞 は RPE 細胞へと分化誘導され、足場のポリ乳酸-グリコール酸共重合体 (PGLA) に植え付けられます。眼内移植後は PGLA が徐々に生分解し、新しい RPE 細胞が適切に配向されて既存の組織と融合します。これは治療法として先陣を切るものです。

IND パッケージを構築

コーヴァンスは、眼科サービスオンデマンド (OSOD) と協力しながら NEI の幹細胞治療 IND 申請パッケージをサポートしています。前臨床研究の運営もその取り組みの一環で、ラットモデルを用いて暫定的な忍容性、生体内分布、毒性、腫瘍原性などを調べています。コーヴァンス / OSOD チームは 2 つのパイロット試験と 4 つの GLP 試験を実施しました。

導入時の拡張性など、さまざまな課題を克服

NEI の研究者らは、コーヴァンスでの研究に入る前に予備的な前臨床試験を実施し、移植ツールの開発、安全性・有効性データの取得、生体内分布 / 腫瘍原性の評価を行いました。

最初の課題は、足場となるパッチの利点を活かすことでした。前臨床試験では、iPS 細胞由来の PRE 細胞が 2 形態(足場への単層細胞移植 / 懸濁液注入)で網膜下のスペースに送達されましたが、 その手法を小型研究モデルにどう応用するか決定する必要がありました。チームは非ヒト霊長類の移植を小規模化し、小型研究モデルで効果的に試験が行えるようにしました。

安全性プロファイルについては、全身への作用のない注入群と移植群で比較しました。​​​​​​​ 試験終了時に、生存能力を持った iPS 細胞由来 RPE が網膜下のスペースに確認されました。予想通り、足場に移植した細胞は移植箇所周辺に集中したままで、懸濁液で注入した細胞は網膜下のより広い範囲に分散していました。

また、幹細胞治療における懸念のひとつに、分化した治療細胞が分化前の状態に戻ることが挙げられます。場合によってはこれが腫瘍形成に至る恐れもあります。そこで、未分化状態の iPS 細胞からなる陽性対照群で実験が行われました。純粋な iPS 細胞を網膜下に注射した研究モデルでは奇形腫が形成され、iPS 細胞由来 RPE 細胞を移植したモデルでは奇形腫の形成はありませんでした。

最後は、テスト製品を受け入れるため、免疫不全モデルでの研究が必要になりました。この際、ラットが病原体を取り込まないよう特別な防止策・手順が必要となりました。実験は IACUC の承認後、AAALAC 認定施設で行われました。

今後:臨床検査の課題

2019年1月現在、NEI チームは治験実施に向けて IND 申請の準備を進めています。

幹細胞治療の治験では、細胞培養の特殊な要件のほか、分化細胞療法の特性化手順、網膜への移植で考えられる影響の評価方法などに注意を払う必要があります。これらに対応するため、適切なラボ施設や設備、検証済みの手法、十分なトレーニングを積んだサイエンティストをそろえなければなりません。コーヴァンスでは免疫毒性学サービスを拡大しており、細胞培養サービスも今後の iPS 細胞プロジェクトを視野に業務を広げています。

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参照:

http://stm.sciencemag.org/content/11/475/eaat5580 [Science Translational Medicine 記事]