新 REACH 規制におけるナノマテリアルの要件:何をすればいいのか

EU の新しいナノテクノロジー規制

2018年12月3日、欧州委員会 (EC: European Commission) は Regulation 2018/1881 を採択し、化学物質を対象とした現行の REACH 規制(登録、評価、認可、制限)を改訂し、ナノ粒子を直接扱うことを決めました。このナノテクノロジー規制は、ナノマテリアルと思われる物質や、ナノマテリアル(粉末など)を含む物質すべてが対象で、それらがナノテクノロジーとして製造されたかどうかは問われません。重要なのは、この改訂後のナノ粒子規制が、新規登録の物質とすでに登録済みの物質両方に適用される点で、ドシエはすべて必要なデータをそろえて更新しなければならなくなります。​​​​​​​​​​​​​​

ナノマテリアル登録のタイムライン

新要件での登録の締め切りは2020年1月1日です。

ナノマテリアルとは?

ナノテクノロジーをめぐる定義はさまざまで、「ナノ粒子」や「ナノマテリアル」といった言葉が同じ意味で用いられています。一般的に、ナノマテリアルは少なくとも 1 ヵ所の粒径が 1〜100 nm の化学物質または材料として定義されています。

EC が初めてナノマテリアルについて定義したのは2011年(2011/696)で、新しい REACH 規制 (2018/1881) では、 REACH に固有のナノフォームの定義が盛り込まれました(図 1)。粒子、一次凝集体、二次凝集体の概念に関する定義にはそれぞれ違いがあります(表 1)。

図 1:ナノマテリアルとナノフォームの定義

定義上、タンパク質、ポリマー、高分子は単一分子とされ、ナノ粒子からは除外されています。しかし、それらが明確な外部境界と測定可能な外形寸法を持つ、安定した個体物体へと組み立てられた場合は、粒子と考えられることがあります。

図 2:粒子に関する用語

新しい規制の内容

Regulation 2018/1881 では主に次のような点で変更がありました。

  • ナノフォームの定義
  • 特性の似たナノフォームを「類似ナノフォームセット」としてグループ化する準備
  • 付属書の修正条項(表 1)

類似ナノフォームセット

  • 類似ナノフォームセットを用いることで規制が機能しやすくなり、不要な危険有害性とリスクのテスト数を低減することができます。「グループ化」は、一定の境界を定義しなければならず、また同時に、境界内の変動がセット内の個々のナノフォームの危険有害性、暴露、リスク評価に影響しないことを証明する必要があります。​​​​​​​ナノフォームは、1 つの類似ナノフォームセットにのみ属すことができます。
  • グループ化には明確な科学的根拠が必要です。これはリードアクロス(類推)法でナノフォーム同士を比較することで達成できるほか、科学的妥当性があれば、ナノフォームと従来の物質を比較することによっても可能です。

付属書の修正

表 2 に列挙しているのが付属書の修正事項です。ナノマテリアル評価のガイダンスとテストが変わってきています。現況に関する詳しい情報は、経済協力開発機構 (OECD: Organization for Economic Co-operation and Development) の公開資料 (Rasmussen 2019) にて入手可能です。また、EU に関するガイダンスも2019年末に共同研究センター (JRC: Joint Research Center) より発表される予定です。

表 1:Regulation 2018/1881 の付属書の変更

今後の分析テストに求められるもの

新規制で最大の課題となったのは、ナノフォームの特性評価です。それは新しい手法が必要になるためです。​ さらに、物理化学、毒性科学、環境における動態と挙動のエンドポイント次第で、これまでとは異なる事柄に焦点当てて分析を行う必要性も出てきます。

ナノフォームの特性評価とグループ化

ナノマテリアルは、製造方法によって、粒度分布や形状、界面化学の異なる複数のナノフォームを作ることができます。その違いが、各ナノフォームの挙動と反応性に影響する場合があります。ナノフォームの挙動を左右する要素には、溶解性、疎水性、分散性などがあり、そのすべてによってナノフォームが最終的に生物系のどこに落ち着くかが決まります。反応性は、ナノフォームの挙動のほか、その後の毒性学的影響や生体毒性学的影響の決め手となります。

REACH のナノ粒子規制のもとでは、申請時に次の 3 項目が審査されます(表:2)

  • 粒子のサイズ / 数、粒度分布
  • 粒子の形状
  • 界面化学​​​​​​​

表 2:REACH 規制におけるナノフォームの特性要件

REACH で求められるナノマテリアル特性については、ECHA がベストプラクティスガイドを発表しています。

物質中にナノフォームが多く含まれている場合は、類似したナノフォームをグループ化することが大切で、 ECHA の定量的構造活性相関 (QSAR: Quantitative Structure-Activity Relationships) とグループ化に関するガイダンス文書には、その最も理想的な方法が紹介されています。グループ化を最適化することでリードアクロス法の使用が可能になり、危険有害性評価のエンドポイントに対処できるほか、当然、費用のかかる追加の試験の必要性も抑えられます。

物理化学関連のエンドポイントの概要

ナノマテリアルは水溶性であるもののサイズが小さく、生体膜を簡単に通り抜けるため、分配係数 (Kow) を用いるのは不適切です。代わりに次のような特性を評価します。

  • オクタノール中および水中における分散安定性(オクタノール / 水分配係数が決定できない場合)
  • 水中および水性環境下(体液内など)での溶解速度

有機体に入るナノフォームが高速で溶解していない限り、ナノフォームとバルクでトキシコキネティクス評価を行ってください。

年間の登録量が 10 トンを超える物質については、物理化学的特性( 一次凝集体 / 二次凝集体の状態、表面モルホロジー / トポグラフィー、結晶性など)がケースバイケースで有益な情報になり得ます。

毒性関連のエンドポイントの概要

従来の物質では、変異原性を調べるエームス試験(付属書 VII)が標準的なエンドポイントです。ただ、ナノフォームは大きすぎて細菌細胞壁を通過しないため、この試験は行えません。その代わり、哺乳類の細胞を用いた試験を実施するよう定められています。年間の物質登録量が 1〜10 トンの場合は、細菌変異原性に関して必要な標準のデータをそろえるとともに、In vitro の変異原性試験を 1 つ以上行うことを検討してください。

ナノマテリアルは吸入が主要な暴露の経路となる可能性が高いため、吸入試験が極めて妥当です。吸入暴露による亜慢性反復投与試験を実施し、そのなかで脳・肺組織の病理組織学的判定と、気管支肺胞洗浄液、動態、適切な回復期の検査を行うようにしてください。

環境動態・挙動関連のエンドポイントの概要

どのような環境動態試験が必要なのかは、分散安定性と溶解速度で概ね決まります。しかし、ナノフォームが環境により変わり得ること、そして、それが環境動態や挙動に影響を及ぼすことは念頭に置かなければなりません。

なお、水溶性の低い従来の物質を対象とした試験の免除は、ナノフォームには適用されません。

次にすべきこと

REACH のもとで登録した物質がナノフォームを含む可能性がある場合は、確認が必要です。まず次の質問にお答えください。

  • その物質は固体ですか?それとも液体ですか?
  • その物質は外部寸法 1〜100 nm の粒子、または一次凝集体 / 二次凝集体で構成されていますか?
  • 粒度分布データからナノ粒子の存在がうかがえますか?(直径 100 nm 未満の粒子が 50% 以上含まれているかどうか)
  • 粒子の形状は?(球形、立方体、チューブ状、ワイヤー状、プレート状など)

物質がナノマテリアルであると分かれば、完全にそれを明らかにし、特性評価を行って、新しい規制要件に従ってドシエを更新しなければなりません。

最後に、Regulation 2018/1881 は、製造業者と輸入業者が必要な情報を評価し、関連性に応じてその情報を生成するよう義務付けています。また製造業者・輸入業者は、化学物質安全性報告書のなかで、彼らが製造または輸入するナノフォーム含有物質の特定用途におけるリスクが適切に管理されていることを示さなければなりません。

結論

EU のナノテクノロジー規制 2018/1881 が導入されたことで、すでにある物質ドシエのすべてを、2020年1月1日までにナノ粒子のエンドポイントを含めたものに更新する必要があります。物質がナノマテリアルであるかどうかに関係なく、登録者全員が物質の分類を裏付ける十分な情報を提供しなければなりません。ナノマテリアルの登録者にとっては、科学および規制の状況をしっかりと踏まえた戦略的な分析アプローチを準備できるかどうかが成功のカギとなります。

電子ブック「ナノマテリアル:REACH 規制の課題を乗り越えるには」でも詳しい情報をご案内しています。ぜひダウンロードしてご一読ください。​​​​​​​